夕刊ムシ/最強の軍曹

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最強の軍曹

アシダカグモ

みなさんはこの名を持つ対G最強の戦士をご存知だろうか。

Gを主食とする大型の蜘蛛で、足がハリウッド俳優並みに長い。成体で足を入れてCDくらいの大きさがある。Gを正確に捕らえるその能力から、「軍曹」と一部で呼ばれている。
別名バナナグモ。かわいい。

ちょっと呼んでみよう。「アシダカさーん」

あれ…。

軍曹は恥ずかしがり屋さんなので、なかなかお姿を我々には見せてくれない。
そう。軍曹は恥ずかしがり屋さんなのだ。

「わたし蜘蛛きらい」という方も多くいらっしゃるだろう。
しかし、軍曹は恥ずかしがり屋さんである故、お姿を拝謁することはあまりないのである。 多くは物陰にお隠れになり、もしも人を察知しようものならものすごいスピードでお逃げになる。

あ…出て来た。

軍曹はGに対して最強の戦士であるが、ご自身に適わぬ相手は的確に判断され、退却なさる。
そして軍曹も混乱なさるときがあり、パニックになって人に向かって壁や天井から落下されることもあるが、我々は落ち着いて対処し、軍曹を見なかったことにするという敬意ある態度を保たねばならない。

軍曹はGを苦手とする人々から絶大な支持を得ている。有名な「2ちゃんねる」でも、軍曹についてのスレッドは多く、恐怖から軍曹を殺めてしまう人に向けて、軍曹の素晴らしさを布教していたりする。 ネットに上げられたある動画には、某ゴキブリ捕獲用粘着シートにかかってしまった軍曹を助けようと奮闘する人の愛のドキュメントもある。

軍曹はかなり礼儀正しく、玄関の前で扉が開くのを待ち、その家のGを殲滅後また玄関から去っていかれた、という話さえ立つほどである。昆虫学者・安富和男氏の著書『ゴキブリ3億年のひみつ』によれば、軍曹が2・3体導入された家ではそこに住むゴキブリは半年以内に殲滅されるという。

軍曹は狩りに対してかなりアグレッシブでいらっしゃる。お食事中であっても、新たな獲物と見れば食事を置いてでも新たに狩りをなさる。その点が、対Gミラクル戦士と呼ばれる所以である。
また、軍曹は人の食べ物の上を這うようなことはなく、またその長い足は軍曹の殺菌能力の高い唾液によって常に清潔に保たれているため、我々の食物に影響を及ぼすことはない。

軍曹がGを食す際、消化液で溶かし小さく団子状にしながら召し上がる為、虫の死骸が苦手である、という人にも安心して同居していただける。しかも徘徊性でいらっしゃるので、蜘蛛の巣は張らない。

ただ、軍曹のお姿は確かに我々にとってかなりショッキングである。上記の点を踏まえると益虫であるとしか言いようがないことは確かであるが、虫が苦手だという人からすれば、かなりの恐怖を煽るものであることは間違いない。それ故、軍曹は不快害虫として駆除の対象にされることがある。

だがどうか、軍曹の姿に怯えた時、思い出して欲しい。
軍曹はその家のGを殲滅すれば、自ら出て行かれるのである。Gの出ないよう徹底的に大掃除を行うか、軍曹自身がGを食べ尽くせばそっといなくなることを理解しておいていただきたい。

今まで怖がっていた人も、軍曹の強さ、ありがたさ、謙虚さを知って、軍曹と出会ってしまった時にはそっと見なかったフリをしていただければと願うばかりである。